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福岡高等裁判所 平成9年(ネ)636号 判決 1999年12月17日

控訴人兼被控訴人(甲・乙事件第一審原告、以下「第一審原告」という。)

甲山太郎

控訴人兼被控訴人(甲・乙事件第一審原告、以下「第一審原告」という。)

乙川二郎

控訴人(甲・乙事件第一審原告、以下「第一審原告」という。)

丙山三郎

外八名

控訴人(丙事件第一審参加人、以下「第一審参加人」という。)

丁野四郎

第一審原告ら及び第一審参加人補助参加人(以下「補助参加人」という。)

甲山花子

第一審原告ら及び第一審参加人補助参加人(以下「補助参加人」という。)

乙川春子

亡戊沢夏こと戊沢夏子訴訟承継人、甲・乙事件第一審原告、丙事件第一審被参加人(脱退、以下「脱退原告」という。)

東山五郎

控訴人兼被控訴人(甲・乙事件第一審被告、丙事件第一審被参加人、以下「第一審被告」という。)

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

佃美弥子外四名

被控訴人(甲・乙事件第一審被告、丙事件第一審被参加人、以下「第一審被告」という。)

南川六郎

右訴訟代理人弁護士

立石六男

主文

一  第一審原告ら及び第一審参加人の本件控訴並びに第一審被告国の本件控訴をいずれも棄却する。

二  第一審原告ら及び第一審参加人の控訴によって生じた費用は第一審原告ら及び第一審参加人の負担とし、当審での補助参加によって生じた費用は補助参加人らの負担とし、第一審被告国の控訴によって生じた費用は第一審被告国の負担とする。

事実及び理由

第一審甲・乙事件原告西田七郎こと北沢八郎は、控訴をしていないため、右各事件の請求を棄却する旨の第一審判決が確定し、当審での当事者になっていないが、以下、本判決における当事者等の呼称や略称については、特に補正した場合を除いて、同人に関する分を含め、原判決の例による。

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告ら及び第一審参加人の控訴の趣旨

1  原判決中第一審原告甲山及び第一審原告乙川敗訴部分並びにその余の第一審原告ら及び第一審参加人に関する部分をいずれも取り消す。

2  第一審被告らは、第一審原告ら及び第一審参加人に対し、各二万円を支払え。

3  第一審被告国は、福岡市内に発行されている朝日新聞西部本社版一面、毎日新聞西部本社版社会面及び西日本新聞一面突き出し広告(5.25センチメートル×2段)に、第一審原告ら及び第一審参加人を名宛人とした原判決添付別紙(一)記載の内容の謝罪文を掲載せよ。

4  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

二  第一審被告国の控訴の趣旨

1  原判決中第一審被告国敗訴部分を取り消す。

2  第一審原告甲山及び第一審原告乙川の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告甲山及び第一審原告乙川の負担とする。

三  第一審原告ら及び第一審参加人の控訴の趣旨に対する第一審被告らの答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は第一審原告ら及び第一審参加人の負担とする。

四  第一審被告国の控訴の趣旨に対する第一審原告乙川の答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は第一審被告国の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件事案の概要は、次の1ないし5で補正し、二以下で当事者双方の当審での主張(従前の主張を整理したものを含む。)を付加するほかは、原判決六頁末行から三四頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八頁八行目の「各本人」の次に「、弁論の全趣旨」を加え、一三頁一行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「また、補助参加人甲山花子は、第一審原告甲山の父の妻であり(第一審原告甲山との間に血縁関係はない。)、補助参加人乙川春子は、第一審原告乙川の養母の娘であるが、いずれも当審で、第一審原告ら及び第一審参加人のために、補助参加した。」

2  同一三頁八行目の「各本人」の次に「、弁論の全趣旨」を加え、一六頁八行目の「圧力窯」を「圧力釜」と改め、二三頁六行目の「再審」の次に「の弁護人」を加える。

3  同二四頁六行目の「主張する」を「主張して、その処分性を争っている」と改める。

4  同三〇頁八行目の「六月送付分」の次に「(準備号)」を加え、「七月送付分」の次に「(第一号)」を加え、九行目の「一〇月送付分」の次に「(第二号)」を加える。

5  同三一頁一〇行目の「一一日」の次に「(第一審原告上野の分)」を加え、「一八日」の次に「(第一審原告中野の分)」を加え、一一行目の「として、」の次に「いずれも」を加える。

二  第一審原告ら及び第一審参加人の当審における主張

1  裁判所から召喚を受けた在監者の出廷については、通達により、施設長の裁量によって許否を決するものとされ、民事、行政訴訟においては、在監者に訴訟代理人制度を活用させるなどして、無用な出廷を避けるとの取扱いが行われているが、右取扱いは、行政庁が司法部の召喚請求を拒否することを定めたものであり、憲法が定める三権分立の精神に反する。殊に、本件においては、第一審被告国から獄中第一審原告らに対して控訴が提起されており、獄中第一審原告らは、これに対する応訴を強いられる立場にあることを考慮すれば、第一審被告国の獄中第一審原告らに対する出廷妨害は、憲法三二条、七六条に反する。

2  東京拘置所は、当審の口頭弁論調書等の公文書を獄中第一審原告らに交付しなかったが、右措置は、獄中第一審原告らに対する訴訟妨害にほかならない。

3  本件差入不許可③は、第一審原告上野及び第一審原告中野が獄中第一審原告らに対し、旧件の訴訟費用に充当してもらう目的でした差入れを不許可にしたものである。右差入れは、獄中第一審原告らとコミュニケーションを図るための方法としての意味合いもあり、これが不許可とされることによって、獄中第一審原告らのみならず、第一審原告上野及び第一審原告中野も精神的損害を被った。さらに、本件差入不許可③は、第一審原告上野及び第一審原告中野には告知されたが、獄中第一審原告らには知らされず、獄中第一審原告らは、本件差入不許可③についての不服申立ての機会も与えられなかったのであるから、二重の損害を被ったことになる。

右の事情に鑑みれば、獄中第一審原告らのみならず、第一審原告上野及び第一審原告中野についても、本件差入不許可③の処分の名宛人として、また、本件差入不許可③によって獄中第一審原告らとのコミュニケーションを妨害された者として、精神的損害を被ったというべきであるから、慰謝料請求が認められなければならない。

三  第一審被告国の当審における主張

1  本件差入不許可③にかかる第一審原告上野及び第一審原告中野による現金の差入れは、獄中第一審原告らから要求されてしたものではなく、また、獄中第一審原告らは、当時経済的に困窮していたわけでもない。右現金の差入れは、獄外第一審原告らから獄中第一審原告らに対する支援の意思を伝達する目的でされたことが明らかである。

右現金の差入れを許可することになれば、獄中第一審原告らに差入人及び差入物が告知されることになるが、その結果、獄中第一審原告らは、獄外第一審原告らの支援の意図を支えとして、対監獄闘争を激化させることが予測される。そして、その場合には、拘置所内の規律及び秩序の維持に支障を来すとともに、獄中第一審原告らの心情に不測の影響を与え、処遇上害を及ぼすおそれがある。したがって、右差入れを不許可とした所長の判断は、極めて常識的であり、本件差入不許可③に違法はない。

2  国家賠償法一条一項の損害賠償義務が生じるためには、少なくとも、法律上保護に値する利益が侵害され、それによって財産的又は精神的損害が発生したことが認められなければならない。そして、法律上保護された利益といえるためには、その内容が客観的に把握するに足る明確性を有しなければならず、その内容が過度に主観的、不明確なものであってはならない。

しかるに、獄中第一審原告らは、本件差入不許可③によって侵害された法的利益の内容について、何ら主張をしていない。獄中第一審原告らの領置金が増加しなかったことをもって法的利益の侵害に当たると解することはできないし、獄外第一審原告らの精神的支援を受けられなかったということは、極めて主観的かつ不明確であり、保護されるべき法的利益に該当しないことは明らかである。

右のとおり、獄中第一審原告らには、法的利益の侵害及び損害の発生がないから、仮に本件差入不許可③が違法であったとしても、損害賠償請求権が発生する余地はない。

3  また、外部交通の制限を受けている死刑確定者に対しては、何人も郵便物等の受取りを一方的に実現できる権利や自由を有していないことを考えれば、本件差入不許可③によって、第一審原告上野及び第一審原告中野の法的利益の侵害があったといえないことは明らかである。したがって、仮に本件差入不許可③が違法であったとしても、それを理由に第一審原告上野及び第一審原告中野に損害賠償請求権が発生するものではない。

四  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三  第一審被告南川に対する請求の争点に対する判断

当裁判所の判断は、原判決三五頁五行目から三六頁四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  第一審被告国に対する請求の争点に対する判断

一  死刑確定前における本件各措置・処分の存否及び違法性の有無(争点1)について

当裁判所の判断は、次に補正するほかは、原判決三六頁八行目から七八頁八行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四二頁八行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「この点に関し、第一審被告国は、本件Tシャツの差入れが申請された際に提出された願箋が東京拘置所に残されていないことを理由に、第一審原告丙田や第一審原告中野が本件Tシャツを任意に持ち帰った旨を主張し、証人下野(旧件)も、差入人が強硬に差入れを求めた場合には、担当職員が願箋を保管し、上司に報告しているはずであるから、願箋が残されてない以上、第一審原告丙田や第一審原告中野が本件Tシャツを任意に持ち帰ったに相違ない旨、第一審被告国の右主張に沿う供述をしている。しかし、右供述は、東京拘置所の一般的な取扱いを前提とする、証人下野の推測に基づくものであるところ、本件Tシャツの差入申請は、東京拘置所にとって特別の事例であり、したがって、担当職員が通常の手順に従って申請を処理したことを当然の前提とするのは相当でなく、前記認定の事実関係に照らせば、東京拘置所の担当職員は、第一審原告丙田及び第一審原告中野による本件Tシャツ差入れの申請を拒否したといわざるを得ない。」

2  同四五頁六行目冒頭の「が認められ」の次に「、さらに、当該制限措置が必要かつ合理的な範囲と認められ」を加え、四九頁一〇行目の「許否」を「拒否」と改め、一一行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「なお、証拠(甲第七六ないし第七八号証、第七九号証の一ないし四、第八六号証の一ないし四)によれば、昭和六三年九月、東京拘置所在監中の刑事被告人に対して、タレントの写真や名称がプリントされたTシャツの差入れが許可されたこと、平成三年六月ころ、第一審原告甲山に対して、「死刑廃止国際条約の批准を求める」との文字が記載された柄入りのTシャツの差入れが許可されたことが認められる。しかし、これらの差入れが許可されたTシャツは、市中で容易に入手することができるものであり、本件Tシャツのように、特定人に対する意思の伝達を企図したものではないから、右各Tシャツの差入れが許可されたこととの対比において、本件Tシャツ受付拒否①、②が違法であるとすることはできない。」

3  同五五頁末行の「面会人」の次に「と他の収容者の面会人と」を加え、五九頁四行目の「と判断される」を削り、「内容」の次に「の記述」を加え、六〇頁末行の「ような」を削り、六一頁六行目の「が認められる」の次に「場合には、当該制限措置が必要かつ合理的な範囲を超えない」を加え、六六頁二行目の「反抗的」を「対抗的」と改め、七行目の「粉砕」を「阻止」と改め、八行目の「一心同体」を「一体」と改め、一〇行目の「とって」を「とるなどして」と改め、六七頁七行目の「これらを」を削り、六八頁七行目冒頭の「が」の次に「相対的に」を加える。

4  同六九頁二行目及び七一頁七行目前段の「時期」をいずれも「事態」と改め、七二頁六行目及び一二行目の「規律」をいずれも「紀律」と改め、七三頁九行目冒頭の「いる」の次に「(本件取扱規程三条五項)」を加え、七四頁四行目の「二三条」の次に「によれば、図書及び新聞紙以外の文書図画の取扱いは、所の実情に応じて所長が定めるものとされている。」を加え、末行の「が認められ」の次に「、さらに、当該制限措置が必要かつ合理的な範囲と認められ」を加え、七五頁五行目の「一三号証、」の次に「第一八〇号証、」を加え、六行目の「写真は、」の次に「昭和六二年二月一日から三日にかけて、福岡市で行われた」を加え、七八頁五行目の「原告乙川」を「獄中第一審原告ら」と改める。

二  死刑確定後における本件各措置・処分の存否及び違法性の有無(争点2(一))について

当裁判所の判断は、次に補正するほかは、原判決七八頁一一行目から一三一頁五行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七九頁六行目の「断ち切られて」を「希薄な状況におかれて」と改め、八〇頁三行目の「得ない」の次に「(最高裁判所平成一一年二月二六日第二小法廷判決・裁判所時報一二三八号八頁、同平成一一年三月一一日第一小法廷判決(同裁判所平成八年(オ)第八四六号、平成九年(オ)第四七三号、平成一〇年(オ)第二六号、乙第二〇ないし第二二号証)参照)」を加え、五行目の「スベキ」を「ス可キ」と改め、八一頁末行の次に改行して、以下のとおり加える。

「すなわち、法は、在監者の外部交通に関し、三一条で文書図画等の閲読について、四五条で接見について、四六条で信書の発受について、五三条で差入れについて、それぞれ規定しているが、所長が個別の制限を行うに当たっては、前記死刑確定者の拘禁の目的、性格及び特殊性を考慮し、その心情の安定にも十分配慮した上で、一般的な取扱いを定めた準則を基準として、右各法条の規定に基づき、当該制限が必要かつ合理的であるかどうかを判断して、決定すべきものというべきである(前掲最高裁判所平成一一年二月二六日第二小法廷判決参照)。そして、本件取扱規程、前記矯正局庁依命通達(昭和四一年一二月二〇日矯正甲第一三三〇号)及び後記矯正局長依命通達(昭和三八年三月一五日矯正甲九六号)は、死刑確定者に閲読させる文書図画の内容や死刑確定者の接見及び信書の発受について、心情の安定を害するおそれのないことを判断要素とすべき旨を定めているが、これらの判断基準は、右の趣旨に基づいた準則であると解すべきであるから、所長は、前記法の趣旨に従い、具体的事案に即した判断を行うべきことになる。」

2  同八二頁七行目の「接見の」から「規定のない」までを「受刑者及び監置に処せられた者以外の」と改め、八四頁一行目の「結果」の前に「反射的な」を加え、八七頁四行目の「越えて」を「超えて」と改め、八八頁八行目の「が認められる」の次に「場合には、当該制限措置が必要かつ合理的な範囲を超えない」を加え、八九頁五行目の「際には、」の次に「原則として」を加える。

3  同九二頁七行目の「反抗」を「抵抗」と改め、九四頁一行目の「認められない」の次に「(なお、第一審被告国は、右措置の処分性を争っている。しかし、第一審原告らの請求は、国家賠償法に基づく損害賠償請求であるから、仮に右措置が行政処分に当たらないとしても、その一事をもって第一審原告らの請求が排斥されるものではない。)」を加え、九九頁四行目の「いうべき」から五行目の「としても」までを「推認されるから」と改める。

4  同一〇一頁七行目の「期日」の次に「に行われた訴訟活動」を加え、八行目冒頭の「概要」の次に「や法廷内の状況」を加え、一〇四頁末行の「本件信書交付不許可②」の次に「にかかる申請」を加え、一〇五頁二、三行目の「いうべきであるから」を「推認されるから」と改める。

5  同一一一頁二行目の「おり、」から三行目の「ではない」までを「いる」と改め、一一九頁九行目冒頭の「できない」の次に「(なお、前記のとおり、当事者間においては、右各小冊子の発送日や送付日に食い違いがあるが、いずれであっても差入不許可の違法性の有無の結論に影響はないから、その点については触れない。)」を加え、一二〇頁六行目の「現し」を「表し」と改め、一二四頁四行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「(4) これに対し、第一審被告国は、本件差入不許可③にかかる第一審原告上野及び第一審原告中野による現金の差入れは、獄外第一審原告らから獄中第一審原告らに対する支援の意思を伝達する目的で行われたことが明らかであるところ、これを許可すれば、獄中第一審原告らは、獄外第一審原告らの支援を支えとして、対監獄闘争を激化させることが予測されるが、その場合には、拘置所内の規律及び秩序に支障を来すとともに、獄中第一審原告らの心情に影響を与え、処遇上害を及ぼすおそれがあるから、右差入れを不許可とした所長の判断は正当であり、本件差入不許可③に違法はない旨を主張するので、付言する。

前記認定の事実及び本件における第一審原告ら及び第一審参加人の主張によれば、本件差入不許可③にかかる申請は、獄外第一審原告らと獄中第一審原告らとの間の意思疎通を図ることを主要な目的として行われたものと解されるが、右不許可の対象物は、法規上受刑者及び被告人について差入れが認められている現金(各一万円、合計二万円)であり、東京拘置所における差入現金の取扱方法に照らせば、右差入れが許可されたからといって、これを契機に獄中第一審原告らによる対監獄闘争の激化を招くおそれがあるとは考え難いから、本件差入不許可③に違法がなかったとすることはできない。そのことは、獄中第一審原告らに著書の印税等の収入があったとしても、同様である。」

6  同一二七頁一〇行目の「一三八条」の次に「(平成八年の改正前)」を加え、一三一頁五行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「(4) これに対し、第一審原告ら及び第一審参加人は、当審において、裁判所から召喚を受けた収容者の出廷は、通達により施設長の裁量により許否を決するものとされ、民事、行政訴訟においては、無用な出廷を避けるとの取扱いがされているが、右取扱いは、行政庁が予め司法部の召喚請求を拒否することを定めたもので、憲法三二条、七六条に反する出廷妨害であり、殊に、獄中第一審原告らが第一審被告国から控訴され、応訴を余儀なくされていることを考えれば、著しく不当である旨を主張する。

しかし、前記判示のとおり、監獄の長は、死刑確定者の拘禁目的を達成するために必要かつ合理的な範囲において、諸般の事情を総合的に勘案して出廷の許否を決することができるところ、前記通達による一般的な取扱基準に準拠して許否の判断がされたとしても、その判断が具体的に合理性を欠くものでない以上、出廷妨害と評される理由はない。そして、本件出廷不許可が違法でないことは、前記判示のとおりであるし、この理は、獄中第一審原告らが第一審被告国から控訴されたことによって異なるものではないから、第一審原告ら及び第一審参加人の右主張は、採用することができない。

(三) なお、第一審原告ら及び第一審参加人は、当審において、東京拘置所が当審の口頭弁論調書等の公文書を獄中第一審原告らに交付しなかった措置が、獄中第一審原告らに対する訴訟妨害に当たる旨を主張する。

右主張の趣旨は、必ずしも明らかでない(平成一〇年一二月に右主張の事実があったことは、記録上明らかであるが、この措置は、本件請求原因事実に直接関わるものではないし、第一審被告南川が関与したものでもない。)が、東京拘置所の右措置は、右訴訟書類の送付が裁判所の職権によるものであるか否かが判然としなかったことを理由とするものである。そして、それまでは獄中第一審原告らに訴訟書類が交付されていたし、その後も当裁判所が送付した口頭弁論調書等の公文書は獄中第一審原告らに交付されていること(これらの事実も、記録上明らかである。)に照らせば、東京拘置所が右措置を採ったことから、本件との関係において、東京拘置所の獄中第一審原告らに対する訴訟妨害の意思を推認することもできない。

したがって、第一審原告ら及び第一審参加人の右主張は、採用することができない。」

三  国際人権規約違反の主張について

当裁判所の判断は、原判決一三一頁七行目から一三二頁九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一三二頁九行目冒頭の「い」の次に「(前掲最高裁判所平成一一年二月二六日第二小法廷判決参照)」を加える。)。

なお、当審証人梅田九郎は、国際人権規約について、第一審原告らの主張に沿う解釈を詳述するが、右供述を考慮してもなお、前記解釈、判断は相当というべきである。

四  本件差入不許可③にかかる第一審被告南川の所長としての故意又は過失の有無(争点2(二))について

当裁判所の判断は、原判決一三二頁一二行目から一三五頁七行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一三四頁四行目の「)」の次に「を」を加える。)。

五  本件差入不許可③にかかる獄中第一審原告ら、第一審原告上野、第一審原告中野の精神的損害の有無及びそれに対する慰謝料の額並びに謝罪広告の要否(争点3)について

当裁判所の判断は、次のとおり補正するほかは、原判決一三五頁一一行目から一三六頁一一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三五頁一一行目の「本件」の前に「(一)」を加え、一三六頁三行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「(二) なお、第一審原告ら及び第一審参加人は、当審において、獄中第一審原告らは、本件差入不許可③の措置を知らされず、これに対する不服申立ての機会を与えられなかったことにより、二重の損害を被った旨を主張する。

確かに、本件差入不許可③が獄中第一審原告らに告知されなかったことは、当事者間に争いがない(なお、この事実は、当審で初めて判明した。)。しかし、前記のとおり、東京拘置所においては、金銭の差入れが許可された場合、名宛人たる在監者にその旨が告知されるべきことが規約されているが、不許可の場合に在監者にその事実を告知することを義務付けた特段の定めはなく、他に右不告知の措置を違法とすべき法的根拠はない。したがって、東京拘置所の右措置によって、本件差入不許可③の違法性が加重されるものではない。

(三) また、第一審被告国は、当審において、獄中第一審原告らは、本件差入不許可③によって、何らの法的利益の侵害を受けておらず、また、損害を被ってもいない旨を主張し、第一審被告国の損害賠償義務を否定する。

しかし、在監者が適法な差入れを受ける利益は、法的保護に値する利益であり、獄中第一審原告らは、右利益を侵害されたのであるから、差入不許可の時点においてその事実を知ると否とを問わず、右侵害により精神的損害を受けたものと認めるのが相当である。本件における獄中第一審原告らの精神的損害は、東京拘置所における差入現金の保管方法等に照らし、主観的な要素が強いことは否定し得べくもないが、そのこと故に右損害の発生が妨げられるものではない。

よって、第一審被告国の右主張は、採用することができない。」

2  同一三六頁七行目の次に改行して、以下のとおり加える。

「この点について、第一審原告ら及び第一審参加人は、当審において、右差入れは、第一審原告上野及び第一審原告中野が獄中第一審原告らとの意思疎通の方法としての意味合いをも込めて申請したものであり、本件差入不許可③によって、獄中第一審原告らのみならず、第一審原告上野及び第一審原告中野も精神的損害を被ったとして、獄中第一審原告らとともに、第一審原告上野及び第一審原告中野に対しても慰謝料請求が認められるべきであると主張する。

しかし、物品の差入れは、本来在監者に対象物を使用収益させることを目的とするものであり、在監者と外部の者との意思の疎通を図る手段として設けられた制度ではない。したがって、第一審原告上野及び第一審原告中野の右主観的意図は、法的保護に値せず、また、在監者に差入れをする利益そのものは、特段の事情がない限り、法的保護に値しないと解されるので、第一審原告上野及び第一審原告中野が本件差入不許可③によって精神的な打撃を受けたとしても、右は、差入れが違法に拒否されたことによって通常生じる損害には当たらないといわなければならない。したがって、第一審原告上野及び第一審原告中野の慰謝料請求を容認することはできない。」

第五  結語

以上の次第で、獄中第一審原告らの甲・乙事件請求のうち、第一審被告国に対し、各三〇〇〇円の限度での慰謝料請求を認容し、第一審被告国に対するその余の請求及び第一審原告南川に対する請求を棄却し、その余の第一審原告ら及び第一審参加人の甲・乙・丙事件請求を全部棄却した原判決は相当であり、第一審原告ら及び第一審参加人の控訴及び第一審被告国の控訴は理由がない。

よって、第一審原告ら及び第一審参加人の控訴及び第一審被告国の控訴をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・小長光馨一、裁判官・長久保尚善、裁判官・石川恭司)

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